実践手作り真空管試験器

筆者 ラジオおじさん  JA8ATG  原  恒 夫


1 バルブチェッカーは自作できるのか
  もう半世紀も真空管を使ってラジオを作っているおじさんのところに「真空管試験器」(バルブチェカー)なるものがありません。理由は簡単で、「測定器は高価」という思いがあって、とても買うことができないと思い続けていたからです。おじさんのところには、自分で買った真空管はあまりないのですが、先輩からいただいたり、業務で一定の時間使った「時間切れ」の真空管など沢山集まってきました。おじさんは、そんな真空管をラジオに差して、動作しなければあわててカソード電圧やプレート電流を測ったりして良否を判定していました。しかし「ラジオおじさん」としては、なんとか「真空管試験器」がほしくなりました。
 それで考えたのが、「自作は出来ないのかな?」ということです。中古で販売されている「真空管試験器」はソケットがずらっと並び、大きいメーターが付いています。重そうなケースが立派です。価格も高くとても手が出せません。きっと凄く複雑な回路で真空管や精密部品が詰まっているのでしょう。早速インターネットを使って「真空管試験器」を検索してみます。沢山発見したHPを覗いて見ます。中には丁寧に回路図を載せて下さって居る方もおります。
「なんだ! 回路は、電源とスイッチだけか!!!」
そうなんです。オームの法則実験機と同じくらい実に簡単な回路なんです。中に故JA1FG梶井謙一さんが書かれた記事を発見しました。やはり回路は電源とソケット、そしてメ-ターだけの簡単なもので真空管試験器はj自作出来ると書いてあります。原理も丁寧に解説があり、電子工学の苦手なおじさんにもなんとか理解できました。早速おじさんは「真空管試験器」を自作してみることにしました。

カソード抵抗をショートするだけです。
プレートに電流計を入れるの忘れました

2 試作機を作ってみる
  試作器を作ることにしました。回路が簡単なのでまな板の上に作ります。梶井さんがすすめている、カソード抵抗を入れたりショートさせてバイアス電圧を変更し、その時のプレート電流の変化で、真空管のgmを測定し、良否を判定するタイプです。定量的なgmを測定できれば一番良いのですが、真空管の健康状態の判定だけでおじさんの目的は達しますので簡単な回路を使います。
  電源は5球スーパー用真空管を検査する程度だと高圧の電流容量は50mAもあればおつりがきそうです。また、ヒーター電圧もとりあえず普段使っている5V、6.3V、12.6Vでいいので「ラジオ少年」頒布のT−2を使って見ることにしました。6BQ5とか大きい真空管を測定しないならT−1でも間に合いそうです。電流計は高価ですし分流器を入れて1mA、100mAの2段くらいに測定範囲を切り替なければならないようです。そこでこれも「ラジオ少年」頒布の500円の小型テスターをそのまま使うことにしました。これだとレンジ切り替えで様々測定が出来ます。このテスターがこの性能で500円は安過ぎます。真空管には様々なタイプのなソケットがありピン接続も様々です。そこでおじさんは考えました。「なにも10個も20個もいろんなソケットなんか付けなくてよいのではないかな。ヒーターや何本かの電極に接続する線を出しておいて鰐口クリップをつけておいて個々の真空管に対応すればよい。」といつものおじさんの貧乏性がむくむくとわき上がってきました。さすがに真空管の足に鰐口クリップをかませるのは無理があるので、一応MT7ピンソケット、MT9ピン、USソケット他必要なソケットは用意しておき、ソケットに真空管をさしこみ、各電極にに必要な線を鰐口で挟むことにしました。ただしプレートには300V近い高圧がかかりますので、クリップで挟む際は注意が必要です。人体に電気を流す実験ではありませんから??? そこで、プレート電圧だけは、安全のためにスタンバイスイッチのような高圧回路を切る回路をつけることにします。ヒーター電圧もクリップで切り替えます。これも電圧を間違うとヒーターが切れてしまいますから注意が必要です。

部品をを板にくっつけました おおむね配線完了です ヒーター電圧もクリップで変更



3 改  良
  早速MT管のソケットに鰐口クリップを付けてみました。ところがUSソケットやST管のソケットは大きいのでそれほど問題はないのでしょうが、MTソケットに7個の鰐口クリップを付けるのはとても大変なことがわかりました。そこで作戦変更です。最初からMTソケットにリード線を配線して、真空管試験機に鰐口クリップで接続することにしました。こうすると確かにMT管のソケットの周りはすっきりするもののMT9ピン用接続線。US8ピン用接続線、UY、−−−−と沢山の接続線と沢山の鰐口クリップが必要になります。

ソケットの周りがクリップの団子 すっきりはしたもののソケット専用線が必要

4 テスト
 さて、6AR5、6BA6などよく使う真空管を使って測定してみましょう。
 それぞれの電極接続をまちがわないよう作った真空管試験機に接続します。結果は、表のようにカソード抵抗を1kΩと0Ω、つまりグリッドバイアスをかけている状態とゼロバイアスの場合のプレート電流の流れ方の違いを電流計で測定しているわけです。電極の接続は、3極間接続にしますから、スクーリングリット、サプレッサーグリットは、まとめてプレートに接続します。
 この状態で、プレートには約300Vがかかっています。6AR5では、カソード抵抗1kΩでプレート電流は約20mAで、カソード抵抗を押しボタンスイッチを押すと約70mAが流れました。リード線をつなぎ直して、6BA6をつないでみます。カソード抵抗1kΩでプレート電流約10mA押しボタンスイッチを押してカソード抵抗をショートするとなんと40mAも流れます。6BA6への流れる電力は、300V×0.04A=12W にもなります。押しボタンスイッチを押しているのは1秒くらいですが、こんな小さな真空管に12Wも電力を食わすとアッという間にのびてしまいます。
「うーん、プレート電圧が高すぎるんだな。」
 JA1FG梶井さんの製作例の回路図をよく見ると、プレート電圧135Vになっています。やはり試作機は電圧が高すぎるようです。そうですよね。とにかくゼロバイアスでプレートに300Vもかければ、真空管は耐え切れませんね。先輩の皆さんにお使いのメーカー製の真空管試験機のかかっていつ電圧を教えていただくとやはり100V〜150Vとのことでした。適当な電圧の電源トランスを探さなければなりません。

  真空管名   カソード1kΩ
  のIP電流
  カソード0Ω
  のIP電流
   6AR5        20mA       70mA
   6BA6        10mA       40mA


以下続く